ガラスの棺 第24話 |
日本海上空では激しい戦闘が行われていた。何十というKMFが空を飛びまわり一斉攻撃を仕掛けるも、その旗艦を守る騎士達を前に次々に海へと墜落していった。 『たった一隻と4騎のナイトメア相手に何て無様な!これだけ雁首揃えて揃いも揃って無能ばかりか!?この戦力差を生かして攻めずにどうする!』 皇カグヤの怒声がコックピット内に響き渡るが、そんな簡単な事ではないと指揮官だけではなくパイロットたちも青ざめた顔で敵を見つめた。 たった4騎。 その4騎が撃ち落とせず、旗艦までたどり着くことさえできない。 エナジーフラーが尽きるのを待ちたいところだが、4騎のうち1騎が戦場を駆けながら他の3騎のエナジーを持ち、交換している姿を目の当たりにしている。これらを落とすにはその補給機を倒すほかない。 だが、その1騎も一騎当千の戦力なだけではなく、他の3騎が上手く護っており手出しが出来ない。こうなったら持久戦に持ち込み、あの旗艦に積まれているエナジーパックが尽きるのを待つほかないのだが・・・おそらくそれは不可能だろう。 次々と撃ち落とされる黒の騎士団の機体、今はまだ後続部隊がいるが、これらもいずれ尽きる。かといって包囲網を解けば逃げられる。相手を捕まえるまで後一歩という状況に見えるが、そう簡単な話では無いのだ。 だが、それが解らない議長達は叱咤し、それが士気を低下させていった。 『ジェレミア卿、次はアーニャ君のエナジー交換お願いしますね~』 「了解した」 先日カノンが使用していたKMFに騎乗していたジェレミアは、エナジーフィラーを手に戦場へと戻って行った。本来であれば共に前線で戦いたいのだが、設計図が残っていたブリタニア製造のランスロット、モルドレッド、トリスタンとは違い、ジェレミアのジークフリートはギアス響団で作られた。その機体の中核を担う機構は肉体改造を行ったジェレミアに合わせて作られたためあまりにも特殊で、あの当時改造は何度か行われたが完全な解析は出来ず、他の3騎とは違い復元する事は不可能だった。 最終決戦でアーニャに勝てたのは、ジークフリートがあったからといっていい。専用機を失ったら今はナイトオブラウンズであった彼らには敵わない。だからこそ、ジェレミアは後方支援に回ることに徹していた。敵機に囲まれながらも次々と敵を撃ち落としていくアーニャに近づいたとき、戦場に変化が訪れた。 『ミサイルが接近しています!!』 通信機越しにセシルの慌てた声が響き、ジェレミアは警戒した。 『え!?待ってこれって・・・そんな、フ、フレイヤです!』 その言葉の意味を最初誰もが飲み込む事が出来なかった。 フレイヤ。 最凶最悪の大量殺戮兵器。 トウキョウ疎開、そしてペンドラゴンを一瞬で消し去った光の悪魔。 ダモクレスと共に消滅したはずだった。 『ロイド、フレアを3時方向へ、セシル、チャフの散布を』 シュナイゼルが即座に命令を出したが、既にミサイルがすぐ傍まで接近していた。 すでに肉眼で捕えられる距離。 狙いは艦橋だった。 即座に発射されたチャフは旗艦を覆い、フレアはオレンジ色の光を指定された区域で発生させた。 『このシグナル、研究用のフレイヤだね。被害範囲は推定10m』 その威力を殺す研究はずっと行っていた。出来るだけ被害範囲が小さなくすむよう、リミッターの開発にも力を入れていた。解除するためのパスワードはここにいる三人しか知らないはずだ。 だから10mで済むはず。 だが10mあればこの旗艦を落とす事は可能だった。 チャフとフレアを打ったところで無駄なあがきだろうと、ロイドは両目を閉じ、その言葉を最後に、ダモクレスとの通信は途絶えた。 **** 「フレイヤ・・・?」 その言葉が何を意味するのか、最初解らなかった。 だが、シュナイゼルが即座に命じた指示と、慌てて対応を始めたロイドとセシルを見てそれが意味するものに気付いた時、ミレイは顔を青ざめた。 「フレイヤって、あの!?」 リヴァルの裏返った叫び声が聞こえた。ああ、聞き間違いでも勘違いでもないのだと理解したミレイは、リヴァルの手を引き走り出した。 その先には紫色の豪華な布にくるまれたガラスの棺。 ミレイは迷わず棺に跨ると、リヴァルも乗るよう促した。 棺の上に跨るミレイにリヴァルがカメラを向ける。 「皆さん、トウキョウ疎開、そしてペンドラゴンに落とされた悪魔の兵器が今、この新生アヴァロンに向かっています。そうです、あのフレイヤです。おそらく、フレイヤ無効化の研究のため、ブリタニアで厳重にに保管されていた研究用のフレイヤだと思われます。・・・リヴァル!しっかりつかまってなさい! 離しちゃ駄目よ!」 ミレイは早口で状況を伝えた後、リヴァルに布を掴むよう指示した。 「ええ、解ってますよ!!」 「フレイヤ着弾まで5、4、3」 震えた声で、それでもセシルはカウントを始めた。 二人は棺に馬乗りになり、布を握りしめその時を待った。 残り2秒がいやに長く感じる。 座席に移動する時間がなかったとは言え、棺に跨るなんてなんて罰当たりだろう。何処に着弾しても間違いなく揺れるから、立っていては危険すぎるし、ルルーシュにはあとで謝るからいいか。 それにこのフレイヤで死ぬかもしれないから、その時は主君の傍で。 そう考えた時、艦橋はまばゆい光に包まれた。 **** 「させない!!」 蜃気楼はその場での戦闘を放棄し、フレイヤへ向かった。 あの兵器でこれ以上命を消す事はあってはならない。 ユーフェミアを思うがゆえの復讐心で生み出された最悪の兵器。 ルルーシュの意思で消滅した兵器。 彼らはフレイヤが戦場にある事を望まない。 『黒の騎士団に告ぐ!撤退せよ!繰り返す、撤退せよ!フレイヤが接近中、撤退せよ!!効果範囲外まで退避せよ!!』 オープンチャンネルを使い、スザクは黒の騎士団に呼びかけた。 彼らはあれが接近している事を知らない。 だからこそ今も纏わりついてくるのだ。 『そのような世迷い言で我々を謀れるとでもお思いか!』 カグヤの怒声がコックピット内に響く。 だが、目前まで迫ってきているミサイルも、それに向かおうとする蜃気楼の姿は、戦闘の放棄や、ミサイルを使った罠とは思えなかった。 『いいから俺から離れろ!!死にたいのか!!』 ゼロとは思えない怒鳴り声に、攻撃を仕掛けていたKMFは動きを止めた。 フレイヤ。 あの最悪の兵器が今こちらに向かってきている。 嘘ではなく、本当に? 黒の騎士団の機体は動揺を隠せない荒い操縦で次第に離れていった。 『どうするつもりだ!』 『止める!!』 『馬鹿!死にたいのか!!』 ジノの制止を振り切り、蜃気楼はミサイルを目指した。 手を伸ばし、それをつかみ取り、少しでも離れた場所で爆破させる。それしかない。飛来するミサイルに合わせ蜃気楼の手が伸びた時、それを邪魔したものが居た。 後ろから蜃気楼を羽交い締めにする機体は味方の物だった。 『ジェレミア!!』 ゼロが叫んだその瞬間。 地獄からの光が再び空を照らし、その姿を人々の目に焼き付けた。 |